柳生さんにハートキャッチ






立海大付属中学校。

今日もテニス部の練習も無事に終わり、柳生は部室を出て行く。

いつもなら、仁王が一緒にいるのだが、今日は朝から欠席していた。

珍しいことでもないが、柳生は日が暮れ始める空をみながら、仁王の家に向かう。

学校からそれほど遠くない仁王の家。

それから自分の家に帰ることを考えると、真っ暗になってしまう。

それでも柳生は今日行かなければならない事情があった。

仁王の家に着き、インターホンを鳴らす。

中から仁王の母が顔をだす。

「柳生くん、こんにちは。雅治なら部屋にいるわよ」

柳生はお邪魔します。と声をかけ、二階の仁王の部屋へあがる。

かなりの頻度で仁王の家にお邪魔しているのもあり、柳生が訪ねてくるのも違和感がなかった。

「仁王くん、入りますよ」

柳生はドアをノックしてから開けた。

仁王はベッドの上に寝ていて、柳生の姿を見ると体を起こした。

「仁王くん、容態の方はいかがですか?」

「容態?俺はピンピンしてるよ…」

口の端を歪ませ、柳生をいたずらっ子のように見る。

「仁王くん、また仮病ですか」

半分あきれる柳生に、仁王は口を歪ませたままだった。

「今日だからの…」

仁王はつぶやくようにいった。

「え?」

柳生は一瞬、何を言ったのか理解できず、言葉を失ったが、

その場を取り繕うように適当に言葉をつけた。

「と、とにかく…何でもなくてよかったです。それよりも、仁王くん、これを…」

柳生はカバンから小さな包みを仁王に差し出した。

「先日、プレゼントを貰いましたから、そのお礼も兼ねてますが、
誕生日おめでとうございます、仁王くん。」

柳生は笑みを浮かべて、そういった。

ついでに今日の調理実習で作ったシュークリームも差し出す。

仁王もうっすらと笑みをこぼして、そのプレゼントを受け取った。

「柳生、他に欲しいものがあるぜよ…」

仁王は柳生の腕を引っ張り、自分の方へと押し倒した。

「に、仁王くんっ!!」

仁王の顔が間近にあり、柳生はカァ〜と顔を赤らめた。

仁王はそのまま、柳生のその唇に触れようとしたが…柳生は顔を背けた。

「柳生、やっぱりダメかのぅ?」

仁王は少し気落ちしながら、柳生に声をかけた。

「…仁王くん、すみません。私も仁王くんと…気持ちではその、そうしたいと…思っていますが…」

柳生はそこまで言うと、ただ。と付け加えた。

二人は恋人同士ではあるが、一切キスも何もできずにいた。

仁王が積極的でそういう状況に行くのだが、柳生がどうしても拒んでしまうということが

毎回あるわけで、仁王もさすがに無理やりにはできないので、我慢してきた。

「ただ…?」

仁王が柳生の言葉を待つ。

「…私でいいんでしょうか…」

いくら好き同士の恋人同士といっても同姓同士の禁じられたもの。

柳生の中にはまだ割り切れていない気持ちがくすぶっていた。

一線を越えた時、自分がどうなってしまうのか、怖かった。

仁王は柳生を静かに抱きしめた。

「柳生、俺はお前が…柳生比呂士という男がいいんじゃ…」

「仁王くん…」

柳生はそっと、仁王の背中に腕を回した。

「柳生、好きじゃき…」

「…私もです」

二人はそっと口付けをかわした。


『俺から好きといったんは柳生、お前が初めてじゃ…』


仁王はそっと柳生の耳元でつぶやいた。



数時間後、すっかりと夜になり、結局泊まる羽目になった柳生だった。

「ところで仁王くん、どうして仮病をしたのですか?」

めがねのズレを直しながら、柳生は仁王に問い詰めた。

「誕生日に一緒に居たかったんよ、休めばお前さんが家にくるからの…」

そんな言葉が仁王の口から返ってくれば、柳生も怒る気も失せ、溜息だけがこぼれた。

「そういえば、仁王くん、シュークリーム傷みませんか?」

柳生は思い出したように部屋の中に放置されているシュークリームを手にとる。

「大丈夫でしょうか、見た目平気そうですが…」

仁王はそれを柳生の手から奪うと口に運ぶ。

「平気じゃき、お前さんが作ってくれたからの…」

柳生はその仁王の姿をみて、笑みを浮かべていた。




おわり